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【自主制作映画】需要はあるものではなく作るもの

初めまして。From.H映像制作チームの林晃太朗です。

つねに世間には、流行の風が吹いている。

それは人々の服装であったり、
言葉であったり、持ち物であったり、行動であったりする、一過性の気分の
昂揚である。


実際の風は、太陽の恵みによって起こる。空気は温度が上がると膨張して
軽くなり、逆に温度が下がると収縮し重くなるため、お日様の温度の匙加減
により地球上の空気は対流しているのである。


では、世間に吹く風はどのような仕組みで起こるのだろうか。


おそらく、世間の空気というものは「需要」という物質で構成されてい
る。この「需要」という物質をうまくあたためることで世間の空気は対流
し、流行の風が吹くのである。


では一体どこにある需要をあたためればその風を吹かせることができるの
か、という所が世のクリエイターの悩みの種であるだろう。今回はその、需
要の所在について考察してみたいと思う。


そもそも需要とは何か。

それは誰しもがもっている”痒いところ”である。

世の人々はいつ何時でもその痒さをとりたいがために悶えている。そのた め、クリエイターが担う仕事というのは、その人々がもっている痒いところ にしっかりと届く”孫の手”を制作することにある。


ではどんな形の孫の手を作ればその痒みは解消されるのだろうか。そもそ もどれくらいの長さや大きさにすればその痒い場所にしっかりと届くのだろ うか。


多くの製作側が頭を抱える部分はここである。 だが、今回の考察で僕が論じたい場所はこの部分ではない。まずはその部 分を、世界的大企業の代表格であり、常に人々の需要を満たす製品を世に繰 り出しているAppleを例にとって説明していきたいと思う。


Appleが顧客の満足度を高め、継続的な関係性を構築することに成功している理由は何か。

それは「顧客が望んでいるとも知らないものを作り出し、 提供しているから」である。


Appleの得意技は「顧客が欲しいとも気づいていない商品や機能を顧客に 提供して気づかせること」である。iPhoneが発売される前の世の中を思い返 してみてほしい。誰がボタンのない画面だけの携帯電話を求めていただろう か。日本にiPhoneが上陸する前には、一部で「日本では流行らずにすぐに消 える」とまで言われていたにもかかわらず、今日ではiPhoneを周りで見ない 日はない。 AirPodsが最初に発売された時も同様である。当初は「耳からうどん」と 揶揄されていたAirPodsだったが、いつの間にか街で見かけるのは特徴的な 白いイヤホンを耳に突っ込んだ人ばかりになり、瞬く間に流行のアイコンに なってしまった。


この通りAppleは、顧客の要望にピタリと応えるのではなく、少し違和感 を残す程度に要望の先の需要を満たすという戦略で顧客の心を鷲掴みにして いるのだ。

つまり、先程の痒みと孫の手の話でいうならば、Appleはクリエイターと して”わざと痒みを発生させて、痒みを解消させる孫の手”を制作しているの である。


ここまでで早々と結論に行きたいところだが、このブログは映画に関する
ものなので、いま旬の映画も例として取り上げたいと思う。


日本の漫画原作の実写化映画は、製作側の利益を求める姿勢が前面に出ることが多いため、原作ファンなどから不評を買うことが多い。そんなイメージがあまりよくない実写映画の中で興行収入、人気度のどちらをとってもトップを張っているのが「るろうに剣心」である。

この「るろうに剣心」がトップに上がることができているのも、観客の要望の先の需要を満たしているからである。観客は実写映画の中で、漫画に登場した衣装や武器などの道具を見ることを一つの楽しみとして観に来ている。だが、ここで安易に原作通りの衣装や道具にしていないところが「るろうに剣心」のうまいところなのである。原作のデザインよりも、よりリアリスティックで実写に合うデザインを採用することにより、コスプレ感もなく一層物語に入り込めるような世界観を構築しているのだ。

このことにより、ただ単に漫画を再現した映画を観に来た観客が、期待を超えて「現実世界にもし緋村抜刀斎がいたら」という新鮮な世界を体験することができるのである。それに加え、何よりも手をかけてこの映画が「観客の気づかぬ需要」として盛り込んでいる要素が、他の映画と一線を画す香港仕込みのアクションである。

「るろうに剣心」のアクション監督は谷垣健治さんが担当している。谷垣監督が作る殺陣は、アクションの本場香港でジャッキー・チェンやドニー・イェンのアシスタントなどを経験して培ったものということもあり、文句なしに世界レベルのアクションだ。この谷垣監督率いるチームが、高度なアクション演出やワイヤー技術を駆使して特殊な走り方を映画に用いたことで「剣心走り」という用語がファンの間で生まれ、真似する人も多く現れた。

だが、ただおもしろい映画が見たいという観客からしてみれば誰がアクションを作ったのかなんてことは知ったことではなく、ただ漠然とかっこいいアクションとおもしろいストーリーが見れさえすればいいと思って映画館に来ているのである。お客からすれば、おもしろい映画が見たいという単純な需要を満たしてくれるものを探してるだけなのだ。そんな調子でいざ観客が蓋を開けてみるとどうだろう。スクリーン上に用意してあったのは谷垣監督が香港から輸入した世界レベルのアクションとカメラワーク。さらには作品のアクションを象徴づけるような「剣心走り」が用意されてあったのである。佐藤健が見たいとだけ思って映画館に行った観客も、そこで思ってもみなかった超絶アクションと映像表現を見ることになり、もう一度それらが見たいと思ってしまう。

この映画を見る前には痒くなかったはずの場所が痒くなってしまい、もうこの映画以外にこの痒みをとるいい孫の手は存在しないという状態になるのである。

要するに、「るろうに剣心」もAppleと同様に、“わざと痒みを発生させ て、痒みを解消する孫の手”、つまり“新たな需要”を生み出したために結果 を残すことができたのだ。
ここまでに挙げた2つの事例を鑑みて浮かび上がるひとつの事実がある。

それは、クリエイティブ活動における「需要」というのは、“あるもの”では なく“作るもの”ということである。

つまり、世間に吹く流行の風というのは、吹くものではなく、吹かせるこ とのできるものだったのだ。世間の空気のどこかにある「需要」という物質 は、誰しもが勝手に太陽となって、あたためていいものだったのである。

最後に、2020年のアカデミー賞受賞スピーチで、映画「パラサイト」を制 作したポン・ジュノ監督がマーティン・スコセッシの言葉を引用して述べた ことを紹介して締めたいと思う。


『最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ』


もしかすると自分たちが最高に楽しいと思えるものが、世の人々の需要を先取りしているのかもしれない。

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